成年後見人が必要になるケースと手続きの流れ
事故で甚大な怪我を負い、被害者が意識不明になったり正常な判断力が著しく低下したりしたような場合、社会生活において本人を守るために「成年後見人」を選任する必要があります。
ここでは、成年後見人が必要になるケースと手続きの流れについて解説します。
判断や意思疎通に著しい障害を負った被害者を守る成年後見人
事故の被害者となること自体が青天の霹靂であるにも関わらず、被害者本人が深刻な怪我を負い、その判断能力や意思疎通能力に著しい障害を負った場合、日常生活を送ることすらままならなくなることがあります。
本人にとっても人生を奪われるような出来事ですし、家族としても将来的な不安を抱えているでしょう。
日常生活におけるあらゆる行動や財産管理、事故加害者に対する賠償金の請求等、大切なことを自分の意思で行えない状態となることは、被害者側にとって非常に大きな無念と損害であると言えます。
そこで、本人を守るために成年後見人を選任し、その生活や賠償金請求等を代理して行う必要が出てくるのです。
以下の条件を満たす場合、成年後見人が必要と認定されることになります。
- 本人が20歳を超えた成人であること
- 本人の意識不明状態が継続しているか著しい判断力の低下が見られること
このような状態に陥る原因としては、事故で脳や脊髄等に深刻な損傷を負い、遷延性意識障害や高次脳機能障害等に陥ったことが挙げられます。
遷延性意識障害(植物状態)
脳機能に損傷を負うことにより、自力での移動や自発的な食事ができず、排泄がうまくできずに失禁する、目で見たものを正しく認識できない、複雑な指示に応えることができない、発語に困難がある、といった症状がみられることがあり、この状態が3か月以上続いた場合、遷延性意識障害の状態にあるとされます。
自発的な思考や行動力が欠損しているため、加害者に対する賠償請求の意思も損なわれている状態だと言えます。
高次脳機能障害
脳に深刻な外傷を負うことにより、記憶が定着しない、注意散漫になるといった症状が見られ、さらに自分で段取りを考えて行動することができず逐一指示が必要となる遂行機能障害も確認できます。
また、自分の感情をコントロールできず対人関係に深刻な影響を及ぼす社会的行動障害等が現れることもあります。
高次脳機能障害が重度になると、適切な判断能力や自発的行動を起こす意思が損なわれ、加害者に対する賠償請求や正常な日常生活を送ることが困難になります。
脊髄損傷
脊髄は人間が生きるために不可欠なあらゆる機能を司っているため、脊髄に深刻な損傷を受けると、完全損傷では運動・感覚・体温調節・代謝の各機能が著しく低下するか失われて生命維持が困難な状態になり、不完全損傷では上下肢に麻痺等が残ったために運動機能が極端に低下することがあります。
脊髄損傷により外部から強い力が加わったことで,中枢神経である脊髄を圧迫や断裂してしまうことをさしています。
脊髄損傷には,運動機能,感覚機能が失われ,体温調節,代謝が困難となる完全損傷(いわゆる「完全麻痺」)と,麻痺としびれにより,上肢や下肢に運動障害が生じる不完全損傷があります。
これらの症状により、被害者は自発的に活発な行動や思考を行うことが難しくなるため、成年後見人の存在が必要になってきます。
どのような人物が成年後見人になれるのか
成年後見人の候補者として最も優先されるのは被害者の家族で、家庭裁判所としてもまず家族について成年後見人としての適切性を判断します。被害者の配偶者や親等の家族が成年後見人となる場合、家庭裁判所に申し立てて認定を受けます。
家族が成年後見人になり弁護士等を後見監督人とする場合は、家庭裁判所に申し立て許可を得る必要があります。後見監督人は、成年後見人が行う業務に不足や不正が生じないよう監督することがその役割となります。
弁護士を成年後見人とした場合、弁護士は被害者本人の代理人となりますので、財産管理や訴訟等について一切を任せることになります。従って、本人の身の回りの世話のために金銭が必要になった場合でも、必ず成年後見人たる弁護士に報告し手続きする必要があります。
不便な面があるものの、成年後見人は本人に代わり全ての行為を行う立場にありますから、不正を防ぎ一元管理による透明性を保つためには必要な流れであると言えます。
単独で成年後見人となった人については、被害者本人の金銭の出入りについて、家庭裁判所に定期報告を行うことが求められます。
成年後見人になるための申し立て書類と手続きの流れ
成年後見人になるためには、被害者本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、以下の書類を揃えて選任の申し立てを行います。
申し立て書類
- 家庭裁判所かホームページから入手した申請書
- 被害者本人の診断書
- 被害者本人の戸籍謄本
- 成年後見人を申し立てる者の戸籍謄本、住民票、登記事項証明書、身分証明書
この他、申し立てに際し収入印紙800円分と裁判所が指定する郵便切手代、また登記手数料として2,600円分の収入印紙が必要です。
申し立て・面接・審問・鑑定
書類を用意して家庭裁判所に提出し申し立てを行うと、裁判所による面接が行われる場合があります。面接の対象は本人、成年後見人の候補者、申立人のそれぞれであり、必要に応じて事情を尋ねる審問が行われることもあります。
また、本人の判断能力を確認するために医師による鑑定が実施されることもありますが、その割合は全体の1割程度と言われており、稀なケースだと言えます。
審判
家庭裁判所は最終的に候補者を成年後見人として選任します。場合によっては裁判所が独自に判断し弁護士を成年後見人として指定することもあります。
審判内容に不服がなく特に申し立てを行わなければ、審判所の受領から2週間後に審判が確定し、成年後見人はその業務を開始します。
成年後見人の申し立て代理は当事務所にお任せください
交通事故は突然身に降りかかるものですから、被害者は何の備えもない状態で深刻な損害を被ってしまいます。特に本人の判断能力が著しく低下するような高次脳機能障害等を負った場合、本人及びその家族は多大な負担を強いられることになります。
このような事態について知識もなくどう対応すれば良いか混乱する中、今後の手続の進め方や将来不安の相談等、弁護士が入ることによって精神的な負担が相当軽減され、金銭的な不安解消のお役にも立つことができます。
当事務所では交通事故事件に強い思い入れを持ち、被害者救済の立場で親身に対応していますので、成年後見人の申し立てをお考えであればぜひご相談頂くことをお勧めします。