死亡事故における逸失利益の構成要素と算定方法
死亡被害者は、事故に遭わなければ今まで通り就労する等して収入を得られたのに、死亡によりそれら経済的な利益を失うことになります。
これを「逸失利益」と呼び、加害者に対してしっかりと請求を行うべき賠償の1つとなります。
ここでは、死亡事故における逸失利益の構成要素と算定方法について解説します。
死亡被害者の生前の収入を求める
生前に被害者が得ていた収入は、逸失利益算定における重要な要素となり、給与所得者や自営業者、主婦等、生前の就労状況により、適用される収入が異なってきます。
いずれも基本的な考え方としては「本人の生前の年収✕死亡により収入を得られなくなった年数」となります。
給与所得者
本人が給与所得者だった場合、事故前年度の年収が採用されます。
主婦
主婦の場合は賃金センサスにおける全年齢平均賃金を適用しますが、もしパート収入を得ていた場合は、事故前年度のパート年収と賃金センサスの採用値を比較し、パート年収が賃金センサスよりも低かった場合は賃金センサスの値を使用します。
自営業者
自営業者は経費を多くするなどして節税に努め、申告所得を少なめにする傾向があります。しかし、逸失利益の算定では確定申告書における申告所得を基準として考えるため、実際の所得がもっと多かったとしても、不利な結果になりやすいと言えます。
無職者
死亡被害者が就職活動中だった場合や就職先が決まっていた場合、あるいは就職できる能力があると認められる場合は、本人の就労の可能性が認められ、逸失利益が認められる場合があります。
学生
学生には収入がありませんが高校卒業後あるいは大学卒業後に就職する可能性が非常に高いことから、卒業時点の年齢を基本とし、賃金センサスから該当する値を適用する場合もあります。
死亡被害者の労働能力喪失期間を求める
死亡しなければ就労できたはずの期間を労働能力喪失期間と呼びます。
働ける年齢の範囲は18歳から上限67歳までとして考えますので、67歳から死亡時の年齢を差し引いた年数が適用されることになります。
従って、事故当時30歳だった人の労働能力喪失期間は「67-30=37年間」となります。
未成年者の場合は、高校卒業後に就労する可能性が高かった場合は18歳、大学卒業後に就労する可能性が高かった場合は22歳を起点として喪失期間を求めます。
65歳以上の高齢者の場合、67歳までの残年数と厚生労働省が公表する簡易生命表に記載された平均余命の2分の1を比較し、いずれか長い方を喪失期間とします。
死亡逸失利益の算出方法
死亡逸失利益を求めるには以下の計算式を用います。
死亡被害者の基礎収入✕(1-生活費控除率)✕ライプニッツ係数
生活費控除率
死亡により生活費としての支出がなくなることを考慮し、その分を逸失利益から控除します。
収入のどれくらいが生活費に充てられていたかをパーセンテージで表しますが、日弁連発行の損害賠償額算定基準によると、被扶養者1名を持つ一家の支柱の場合は生活費控除率が40%、被扶養者2人以上では30%とされます。
また、女性は年齢や婚姻状況を問わず30%、男性は年齢や婚姻状況を問わず50%として考えます。
ライプニッツ係数
将来的に得られた収入分を逸失利益として受け取った場合、運用による利益を追加で得られる可能性が生じるため、この分を控除する必要があります。
この場合、労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数を用いて計算を行うことになります。
国土交通省が公表しているライプニッツ係数表によると、例えば20歳の人の労働能力喪失期間は47年であることから、それに対応するライプニッツ係数が17.981であることがわかります。
年金受給者の逸失利益の考え方
死亡時に年金を受給していた被害者については、年金も逸失利益の対象として考慮されます。
ただし、本人の生計維持のために給付されている年金かどうか、年金保険料との関係性、年金の継続支払いの確実性等の要素から判断されるため、老齢年金や退職共済年金、障害年金は認められますが、遺族年金や軍人恩給は認められません。
死亡逸失利益における退職金の扱い
退職金規程のある会社では、社員が死亡すると死亡退職金が支払われることがあります。この場合、現時点で受け取った死亡退職金の額と、定年まで勤め上げた時にもらえる満額の退職金との差額について、逸失利益分として請求することができます。
この場合、以下の条件を満たしている必要があります。
事故と死亡による退職に因果関係がある
事故で死亡した事実は歴然ですから、因果関係について問題になる可能性は低いと言えます。
死亡しなければ定年まで勤め上げる高い可能性が認められる
死亡時までの勤務年数が長く退職までの年数が短いほど、定年まで勤め上げる可能性が高いと認められる傾向があります。従って転職回数の少なさも考慮される要素の1つとなるのです。
また、大企業の社員や公務員の場合、勤務先の規模やその安定性が評価されやすく有利に働くと言えます。これらの条件を総合的に判断し、死亡逸失利益における退職金の取り扱いが決まることになります。
困難を伴う死亡逸失利益は速やかに弁護士へ相談を
自力で逸失利益の構成要素を理解し正確な算定を行うことは難しく、個々のケースにより金額修正されることもあるため、導き出した逸失利益の妥当性を判断することは非常に困難です。
その状態で相手方との交渉に臨めば、相手方保険会社のペースに持ち込まれ、不利な条件での合意を迫られるリスクも考えられます。
知識や経験を持たない被害者側としては、保険会社に対して適切かつ迅速な手を打つことが難しいですが、弁護士であれば根拠のはっきりした主張を行い、必要に応じて速やかに訴訟を起こすこともできるため、保険会社は「誰が相手か」によって対応を変えている可能性があります。
被害者側が独自に交渉するのと弁護士を相手にするのとでは、結果がかなり変わってくるのです。
示談あっせん委員の経験を持つ当事務所弁護士は、こういった保険会社の対応傾向や、金額交渉のラインについても熟知しているため、適切な逸失利益分を獲得するだけでなく、賠償問題をトータルでサポートすることができます。問題の深刻度が高いからこそ、ぜひ、早い段階で弁護士に相談されることをお勧めします。